キャッシュと存在理由。血液循環と魂。
これまで、大企業やベンチャー企業、NPOなど様々な目的/規模の組織を見てきた。
市場の中で生きる組織において必ず論点となるのは、「我々は何のために存在しているのか?」だ。
大企業の場合、業績を上げ続け、株主/社員に還元すること。
ベンチャー企業の場合、ビジョンを実現し、世界を変えること。
NPOの場合、受益者を一人でも多く、理想の状態へと導くこと。
それぞれ答えは違うが、存在理由(=魂)とキャッシュ(=血液)の優先度を誤らないようにすることは、気を付けた方が良いと思う。
僕の在籍したベンチャー企業では、建前では存在理由を掲げるものの、実際にはキャッシュフローの改善が全ての意思決定の基準となり、嫌気がさした人から去っていった。
キャッシュフローの改善自体は必要だ。キャッシュは血液であり、循環しなければ会社は死ぬ。気を付けるべきは、キャッシュフローの改善の中で、社員の心身の健康が置き去りにされることだ。
従業員の想いや、健康的な生活よりも、カネを稼ぐことを優先した結果、従業員から仕事への熱意が失われ、心身が傷つくケースを、何度も見てきた。
こうした課題に対して、解の方向性は自明だ。痛みを伴う改革である。意思決定の基準を、キャッシュフローの改善(血液)から、存在理由(魂)へと変えるのだ。
これは勇気が必要だ。なぜなら、これまでキャッシュフローの改善に大きく貢献してきた経営層/事業部長を、現在のポジションから下ろすことになるからだ。
経営者にとっては、良心が痛むだけでなく、安定したキャッシュの創出源を捨てることになるため、非常に難しい意思決定である。
NPO支援の際の心得
NPOの経営支援に関わることになった。代表と話したときの学びをメモ。
①人は、自分が納得したことしか実行しない。大工と話すときは大工の言葉を使え
- 事例調査において、大規模NPOを参考にすればどうか、という話をすると、「そのような大きな団体は参考にならない」と話を受ける。
- 事例調査なんてなんでもよくて、背景のメカニズムが本質なのだからそれを抽出すればよいのだという話をしても、伝わらないのである。
- 現場の人にとっては、目に見えている現実がすべて。理論の話は受け入れられない。まずは、現場の人と同じ視座で話をしよう。理論の話はそれからだ。
②零細経営企業/団体は、マイナスの自己認識が充満している
- 何かを「やりたい」といっても「いや人がいないから……」というできない理由を探すのがセットになっている。
- これまで何度も、できない理由に直面してきたからであろう。
- できない理由は、打ち手を講じることで、解消できる。ポジティブな変革をもたらすことが、プロブレム・ソルバーに求められる。
③クイックウィン
- 外から理論を振りかざす人間は、すぐには信用されない。
- まずは、現場レベルで小さな成果を創出し、信頼を勝ち得て、大きな変革につなげよ。
- まず木を見ろ。だが、同時に森も見ろ。
コロナショックとフリーランスコンサルタント
コロナショックにより、企業の株価が暴落。
業界では、観光産業、製造業が特に低迷。
└前者は旅行禁止
└後者はサプライチェーン崩壊@中国
さて、不景気になるとコンサルティング業界は大打撃を受けるわけだ。
企業からすると、コスト削減引き当て順は以下の通り。
- 変動費(Nice to have)は削減
└業務委託費(成長戦略系コンサル、業務改善系コンサル)、研究開発費など - 変動費(MUST)はできる限り削減
└業務委託費(システム開発部隊)、消耗品、原材料費など - 固定費はできる限り削減
└人件費(余剰社員)、家賃、水道光熱費、広告宣伝費
1は戦略コンサル、業務コンサルの領域で、特に前者は切られやすい。
発注する企業側がコンサルタントを切るようになると、フリーランスコンサルにも影響を及ぼす。
- 企業がコンサルを切る
- コンサルティング会社の仕事が減り、人が余る
- コンサルティング会社は自社の人間のみで仕事を回すようになる
- いわゆるフリーランスコンサルにとって、ファームアンダーの仕事がなくなる
- フリーランスコンサルの仕事が減り、フリーランスコンサルは路頭に迷うことになる
フリーランスコンサルの生き残りとしては、
- クライアント/ファーム側とのリレーションを強くしておく(代替不可能の人材になる)
- 不景気でも強い領域のスキルを身につけておく
└コスト削減/組織人事/システム開発
コロナショックによる経済停滞は、今後半年~1年は続く。好景気時代に回復するまでは、さらに時間がかかるだろう。
企業からすると、以下のように動くはずだ。
拝啓 若手コンサルタントの皆様 ― 誰も教えてくれないキャッチアップの方法
コンサルタントは、全く未経験の新しいテーマのプロジェクトに取り組むことが多い。
良く知られているように、ソリューションとインダストリーの2軸の交点のテーマに、「わからないことがあったらなんでも聞いてね」ではなく「お前プロだろ」の精神論でくらいつかなかくてはならない。
縦軸のソリューションは、戦略/業務/ITが大分類。さらに戦略の中でも全社戦略、新規事業戦略、M&A……といったようにもう1段階ブレイクダウンされる。
横軸のインダストリーは、その名の通り消費財、通信、車製造……といった業界区分。
縦軸と横軸、どちらかが経験があればさほど苦労しないのだが、若手のコンサルタントはどちらも経験がないので、何とかするのだ。
さて、ここで問題になるのは、上位職(パートナー/マネージャー)の丸投げっぷりで、「〇〇というテーマについてキャッチアップ(知識習得)しといてね」と言われて、後はプロジェクト開始まで自由裁量で学習する。これはある種洗礼的なもので、最初のプロジェクトでは大失敗して、2回目以降に自分なりの方法論を身に着けていく、という感じ。結構辛いので、以下に、プロジェクトキャッチアップの方法論を記載する。別に、コンサルタントに限らず、あらゆる「新しいコト」を始めようとする人にとって、参考になればと思う。
【キャッチアップ方法論】
①目的とゴールを設定する
・目的は「なぜやるのか?(WHY)」に対応し、ゴールとは「どのような状態を目指すのか?(WHAT)」に対応する。
・キャッチアップにおいても言語化して設定した方が良い。新卒ならば、例えば部署単位のBPRプロジェクトを想定すると、
・目的は「プロジェクトにおける担当タスク(議事録作成・業務ヒアリング・業務フロー作成)において、クライアント業務内容を理解したうえで、成果物を速やかに作成することを通し、プロジェクトチームとしての工数削減・成果創出に寄与する」
・ゴールは「インダストリーの観点では、〇〇業界の事業構造とクライアント企業の位置付け、カウンターパートになる△△部署の業務内容について自分で説明できる状態。ソリューションの観点では、BPRの手法(構成要素とプロセス)を理解し、成果物ドラフトの作成が可能な状態」
・大前提として、プロジェクトの背景と提案内容(提案書を読む)、自分の役割を把握しておくこと
②構成要素の洗い出し(初期)
・次フェーズでスケジュールを策定するためのインプットとして、以下をググって(あるいは社内の過去プロジェクト資料を見て)プロジェクトの構成要素をざっくり出す。目安2~4時間。以下例
- クライアント業界(メディア)
- クライアント企業(リクルートライフスタイル)
- クライアントのカウンターパートの部署(人事部)
- 提案するソリューション(BPR)
③キャッチアップのスケジュールを策定する
・目的とゴールを達成するためのタスクを分解し、いつまでに終わらせるかを検討する。WBS作成と同義。
・WBSの作成におけるポイントは以下5つ。
- アプローチ(ハイレベルなタスクの依存関係の、時間軸での整理)をもとにつくれ
- タスクの所要時間見積もりで見栄をはるな
- タスク遂行に必要な関係者を洗い出す(依頼が必要な場合早めに処理)
- クリティカルパスの見極め
- バッファの設定(キャッチアップのような小規模タスクの場合、最短見込所要工数の20%が目安)
・この段階では情報量が少ないので、タスクの粒度は粗くて良い。スケジュールは④~⑦をこなす中で修正していく。
・スケジュールを作成することで、やるべきことの全体感が把握できる。間に合いそうにないことが判明すれば、優先度を自分でまず考え、上司に相談する。彼らはレバレッジポイント(少ない労力で大きな成果が出せる場所)を知っている
※ここまでできた段階でレビューしてもらうとなおよし。マネージャーに見てもらうのは難しければ、仲が良い先輩に見てもらおう
※WBSはクライアントに見せるものではないので、見た目は適当で良い。キレイなWBSではなく、自分が、全体感が見え、進捗管理ができるものをつくれ
④構成要素の洗い出し(中期)
・情報を闇雲に集めるのは筋悪で、フレームワークを粗くても良いから設定し、その妥当性を検証する形で情報を集めた方が良い。
・しかし、キャッチアップ初期の段階ではフレームワークも論点も思い浮かばないので、最初はあびるように情報を集める。目安1~2日。
⑤仮説ベースでフレームワーク(全体感を構成する枠組み)をつくる
・④フェーズが終了すれば、全体感は見えなくても、構成要素は大部分見えてくる。
・構成要素の関係性を整理し、正しいかどうかはいったんわきにおき、フレームワークを作る(以下アウトプット例)。
- マクロ環境分析(PEST)
- 事業構造マップ(縦軸に製品、横軸にビジネスプロセス(企画~アフターサービス))
- 業務フロー(縦軸に部署(ヒト)/システム、横軸に業務の流れ)
- システム構成図(システムと、システム同士のつなり。やりとりするデータ)
- ステークホルダーマトリクス(縦軸に職位、横軸にサプライヤー⇒自社⇒顧客)
- ソリューションアプローチ(新規事業企画、BPR、システム開発などソリューションのハイレベルなタスクの依存関係と成果物を、時間軸で整理したもの)
⑥質問してフレームワークを精緻化する
・フレームワークの妥当性を、先輩や上位職に見てもらい、修正・精緻化する
・なぜここまでフレームワークにこだわるかというと、後工程の⑦やプロジェクトのヒアリング時に登場する新規情報を、自分のフレームワークにプロットすることができるため。フレームワークの効用は、新規要素の速やかな理解である。
・より実務的なことをいうと、クライアント社員はもちろん、上司も、基本的な構造は教えてくれない。彼らにとって既知の内容(=付加価値をうまない内容)だからだ。フレームワークは自分で習得しなければ、ミーティング中に、上司とクライアント社員の言っていることが1ミリも理解できない。
⑦細かな部分の知識を埋めていく
・フレームワークをベースにして、さらに細かな情報を集めていく
・業界の最新ニュース、業務において使用される帳票、クライアント特有の用語など
※もっと知りたい!人への参考文献とヒト
・戦略コンサルタントShin氏
・事業家 山口揚平氏
・安宅氏「イシューからはじめよ」
・波頭氏「論理的思考のコアスキル」
福祉業界と保険業界の類似性 ― 最適な介護サービスの利用が難しい構造
福祉業界でのプロボノ活動を通じて、福祉サービスを利用者(要介護者)が選定するフローは、保険業界で、顧客が保険を契約するフローに近しいことがわかった。
福祉サービスとは、ホームヘルパーやデイサービスなど、「要介護者の日常生活を支援する、または要介護状態の進行を遅らせるためのサービス」と理解されたい。
要介護者が福祉サービスを利用するまでの一般的な流れは以下の通りである。
①認知:ケアマネージャーから福祉サービス事業所の紹介を受け、
②理解:サービス事業所の自宅からの距離や、価格、評判などを総合的に把握し、
③選定:ケアマネージャーを通じてサービス事業者と契約する。ケアマネージャーは、要介護者のケアプランに当該事業所利用を組み込む。
④利用:要介護者はサービスの利用を開始し、
⑤継続:サービスの質が良ければ、要介護状態の間、継続して利用する。
補足すると、ケアプランとは「要介護者が、日常生活において利用する介護サービスの計画表」である。利用可能な介護サービスは、ケアマネージャーが作成するケアプランに規定されなければならない。例えば「月曜日と水曜日の14:00-16:00は〇〇事業所のホームヘルパーが訪問する」といった具合である。要介護者は、勝手に介護サービスを変更することはできないのである。(※1)
このように、要介護者が福祉サービスの認知から継続利用までの全フローにおいて、ケアマネージャーは大きな権限を持つ。また、要介護者およびその家族からすると、複雑な介護サービスへの理解など当然なく、サービスの選択においてケアマネージャーに依存せざるを得ないのである。
やっと本題に入るが、これは生命保険の契約における決定要因の構造に近しい。生命保険は、高齢者が理解するには難解のため、顧客は生命保険のサービス内容というよりも、営業担当の人柄で保険に契約する。福祉業界においても同様で、要介護者は、介護サービスそのものの質よりも、ケアマネージャーから紹介されたから、という理由で介護サービスを選択せざるを得ない。
このとき問題なのは、ケアマネージャーは、介護サービスを横断的に把握するのが難しいことである。ケアマネージャーの多くは、要介護者に対して最善のサービスの組み合わせを提案したいと思っている。しかし、ケアマネージャーは数十ものケアプラン作成/管理を担当しており、最新介護サービスの情報を把握する時間はない。従って、ありものの風化した知識の中から、要介護者に介護サービスを提案せざるを得ないのである。
とはいえ、インターネットの普及で、要介護者/ケアマネージャーともに、介護サービスを広く知ることができる状況になっている。スマフォの普及率は高齢者間でも60%を超えている。情報の非対称性を解消しようと動く企業もある(SMSなど)。また、行政や地域包括支援センター、ケアマネージャーも課題意識を持っている。
要介護者が最適な介護サービスを利用できない状況は、すぐに改善するのは難しいだろうが、トライセクター(官・民・NPO)が連携しての取り組みが活性化すれば、未来は明るいと思う。
(※1)介護サービスは、介護保険適用範囲内で利用することで、利用料金を1割負担にすることができる。要介護度合が重くなる(1~5まで)につれ、介護保険適用範囲内の上限金額は上がっていく。要介護度1ならば167,650円まで、要介護5ならば362,170円までならば、1割負担で介護サービスを利用可能である。
定年退職後、どう生きるか
定年退職後、何をしたいかは考えた方が良いと思う。
生きていく中で、職場が与えてくれる効用は意外にバカにならない。
①関係性
②役割と責任
③承認
④収入
仕事を辞めるとこれらがすべてなくなるので、余生に向け、「自分が何をしたいか」を問わざるを得なくなる。特に、男性はコミュニケーションが苦手な人が多いので、「目的のない」人間関係を構築するのが難しく、要注意である。
個人的には、定年退職後も他者と関わりながら楽しく生きがいをもてるような仕組みを作りたい。
ちなみに僕は海の近いお店で喫茶店を作りたい。
コンサルタントは戦略・業務・ITという区分よりも、思考力というお話
一般的に戦略コンサルの方が業務・ITコンサルよりも単価が高い。
戦略コンサルは300万~600万/月、業務・ITコンサルは200万~500万/月くらいか。
とはいえ、戦略コンサルでフィーに値するパフォーマンスを出しているのはほんの一部で、プロジェクトの手足となる若手スタッフは「それっぽい」紙を書くのが関の山のように感じる。
※きれいな紙を書くのが目的になっている感じ
残酷なことだけど、コンサルティング業界は、純粋左脳至上主義で、結局のところ頭が良い人が上に立つ。 ※一部例外除く
頭の良さとは、思考力とほぼ同義。思考力とは、豊富な知識と、情報加工力。情報加工力とは、要素分解と関係性の整理を通した体系化(整理学)。それからの示唆出し。
体系化では、クライアントが直面する課題の構造(因果)を解明する。
示唆出しでは、理想論ではなく、ヒトが実行できるレベルの解を出すことが重要。
そこには戦略も業務もITも関係ない。戦略 >>>>> 業務・IT という考えが一般的だが、ベースの思考力さえあれば、ファームのどんな仕事でもやっていける。
若手コンサルタントは、きれいな紙の書き方よりも、ベースとなる思考力を鍛え上げてくれるマネージャーのもとで働けたら、幸せ。